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エドヴァルド・グリーグ

エドヴァルド・グリーグ

作曲

1843 — 1907
エドヴァルド・グリーグの音楽は常にロマンティックだが決して感傷的ではない。その冒険的なリズムと大胆なハーモニーには、しばしばノルウェー民謡の影響が見て取れる。ライプツィヒで正式な音楽教育を受けたグリーグだが、作品の中心には常にノルウェーの民族音楽があり続けた。クラシック音楽と民族音楽を調和させることへの願望が、独特の味わいのグリーグ音楽を作り出した。グリーグはオペラの作曲は行わなかったが、イプセンの《ペール・ギュント》のための音楽は、よく知られる2つの組曲のみに留まらない大作であり、ときにはワーグナーを思わせる激しさにも達する。ワーグナーの音楽に魅了され続けたグリーグは、ライプツィヒでの学生時代にはワーグナーの《タンホイザー》を14回も鑑賞し、1876年にはバイロイト音楽祭で《リング・チクルス》の初演にも足を運んでいる。 グリーグはその後、ビョルンスティエルネ・ビョルンソンの歌劇《オラヴ・トリグヴァソン》を基にした独自のオペラの作曲に着手した。この作品は完成しなかったが、残されている音楽からは、ワーグナーの宣言的声楽スタイルへの傾倒がよく見て取れる。《ペールギュント》というオペラは様々な意味でグリーグ本来の作品ではない。同作によって手に入れた大いなる名声とは裏腹に、グリーグはこの曲の作曲にとてつもない困難を感じていた。皮肉をまとったにイプセンの戯曲に合わせ「誇張されたノルウェーのナショナリズム」を醸し出すことがグリーグの意図であったが、音楽は一人歩きし、皮肉のメッセージが失われてしまったのである。組曲《朝》も、目覚めを演出するインスタントコーヒーの宣伝など、随所で多用され続けるうちに本来の意味合いを失うようになったが、元々は、サハラ砂漠の日の出を表現したものであった。フィヨルドの日の出のように聞こえるのは、ノルウェーの国楽器ハルダンゲルフィドルの共鳴弦の4音を基にメロディーが作られているため。弓で弾く弦の下に共鳴弦のあるハルダンゲルフィドルの響きは独特である。 ノルウェーのヴァイオリン音楽は常に魅惑の源であり、グリーグはヨハン・ハルヴォルセンのノルウェーの農民のフィドル・ダンス集をピアノ用に編曲している。グリーグの音楽がノルウェー的であることは必ずしも十分には評価されているわけではないが、彼の意図は常に、ノルウェーというよりもむしろスカンジナビア的な文化価値を体現することにあった。グリーグの音楽様式で興味深いのはその和声である。グリーグの独特な和声と音色使いは、ピンクのお菓子を思わせるような音楽を作ったドビュッシーの印象主義を先取りしている。またグリーグはピアノ作品の伴奏テクスチャーに開放5度を繰り返し用いている。《鐘の音》は特に時代の先端を行くもので、その発想は、ほぼ1世紀のときを経て、スティーブ・ライヒなどのアメリカの作曲家によるミニマリズム実験により、再び西洋のクラシック音楽に登場した。