エッダ・モーザー
ソプラノ
ドイツ出身のオペラ歌手エッダ・モーザーは、とりわけモーツァルト作品のソプラノ役で定評を得た。《魔笛》の夜の女王役で絶賛を博したモーザーによるアリア〈復讐の炎は我が心に燃え〉の録音は、「ボイジャーのゴールデンレコード」の一曲として、1977年にNASAの探査機ボイジャーに積まれ、太陽系に送られた。
1938年、ベルリン生まれ。作曲家、歌手、音楽学者のハンス・ヨアヒム・モーザーを父に持つ。ベルリン音楽院で声楽を学び、1962年にベルリン・ドイツ・オペラで《蝶々夫人》のケイト・ピンカートン役を演じ、初舞台を踏んだ。その後数年間、ドイツ国内のオペラ・カンパニーで他の脇役や合唱を歌った後、1968年にヘルベルト・フォン・カラヤン(以前にザルツブルクで共演)の指揮で《ラインの黄金》のヴェルグンデ役を演じ、ニューヨークのメトロポリタン歌劇場にデビューした。同歌劇場で9シーズンにわたって歌い、モーツァルトの夜の女王役を自身の当たり役として確立。この他ニューヨークで歌った役として、《後宮からの誘拐》のコンスタンツェ、《ラ・ボエーム》のムゼッタ、《トゥーランドット》のリュー、《道化師》のネッダ、《リナルド》のアルミレーナが挙げられる。さらにモーザーは、ニューヨークで《ドン・ジョヴァンニ》のドンナ・アンナを、誰よりも頻繁に演じた歌手でもある。フランクフルト歌劇場とウィーン国立歌劇場に所属していた期間に加えて、世界中の多くの一流オペラ・ハウスや音楽祭の舞台に立った他、ジョゼフ・ロージー監督の1979年の映画版『ドン・ジョヴァンニ』でもドンナ・アンナを演じた。
モーザーの歌手としての歩みは、彼女のディスコグラフィにも反映されている。数々のモーツァルト作品の録音はもとより、ハンス・ヴェルナー・ヘンツェの《終末の寓話のカンタータ》や《メデューサの筏》など、現代作品の録音も残している。親友のヘンツェとはたびたび仕事をともにした。とりわけモーザーは、会場内で政治的暴動が起こった《メデューサの筏》の初演でキャストの一人を務め、その2年後の1971年にも、同作品の演奏会形式の初演に参加している。リート歌手としても聴衆を魅了したモーザーは、ロベルト・シューマン、クララ・シューマン、ブラームス、ヴォルフ、リヒャルト・シュトラウスの歌曲を録音した。
1980年代から次世代の歌手の育成に励んでいるモーザーは、各地の音楽学校でマスタークラスを行っており、1994年にオペラ歌手を引退した後ケルン音楽院で教え始めた。 長きにわたり母国ドイツの文化の継承に努めてきたモーザーは、2006年にドイツ語フェスティバルを設立し、現在も芸術監督として同イベントを主宰している。