ラファウ・ブレハッチ
ピアノ
深い思考と感情が融合したラファウ・ブレハッチの音楽は、抗しがたいエネルギーと鋭い洞察に満ちている。ポーランド出身のピアニスト、ブレハッチの、鍵盤を完全に操り、楽器の表現力を最大限に引き出す能力から生まれる芸術は、稀有なものとして認められている。その資質に芸術的、職業的成長を支えられ、世界最高のピアニストの一人となった今も、誠実さとビジョンをもって演奏に取り組む姿勢が高く評価されている。
ブレハッチは1985年、ポーランド北部の小さな町ナクウォ・ナド・ノテチォンに生まれた。早くから音楽の才能を発揮し、5歳でピアノのレッスンを開始。ブィドゴシュチュ市のアルトゥール・ルービンシュタイン音楽学校に入学した後、同市のフェリクス・ノヴォヴィエイスキ音楽大学に進み、2007年にカタジーナ・ポポヴァ=ズィドロンのピアノクラスを卒業した。2002年、ブィドゴシュチュで開かれたアルトゥール・ルービンシュタイン国際青少年ピアノ・コンクールで第2位、翌年には浜松国際ピアノコンクールで第1位、2005年にはワルシャワのショパン国際ピアノコンクールで優勝し、ポーランド人としてクリスチャン・ツィメルマン以来の30年振りの最高位を獲得した。
20歳の誕生日を数カ月後に控えたブレハッチがショパン・コンクールで見せた雄弁で激しい演奏は、優勝メダルだけでなく、4つの特別賞と聴衆賞までをも独占した。2006年にはドイツ・グラモフォンと専属契約を結び、ポーランド人ピアニストとしてはツィメルマンに次いで2人目の国際的なアーティストとして名を連ねた。2007年、ショパンの前奏曲全曲と2つの夜想曲 op. 62をカップリングしたソロ・デビュー・アルバムをリリースし、エコー・クラシック賞とディアパゾン・ドール賞を受賞した。演奏、録音ともショパン作品に富んでおり、ショパンのピアノ協奏曲とポロネーズに捧げられたアルバムは高い評価を得ている。また、J.S.バッハ、ベートーヴェン、ブラームス、ドビュッシー、リスト、モーツァルト、シューマン、シマノフスキなどの音楽にも情熱を持ち、レパートリー選択にもそれが表れている。彼の録音は、ドイツレコード批評家賞、ポーランドのグラミー賞に相当する2度のフレデリック賞、エコー・クラシック賞20世紀、21世紀ピアノ部門最優秀ソロ・レコーディング賞も獲得している。
2016年演奏活動を休止したブレハッチは、ポーランドのトルンにあるニコラウス・コペルニクス大学で、音楽の形而上学と美学を研究し、哲学の博士課程を修了した。2017年にコンサート活動を再開し、以降、日本、中国、韓国、台湾での公演、英国、ドイツ、ベルギーでのバーミンガム市交響楽団およびミルガ・グラジニーテ=ティーラとの共演、日本に戻っての長期リサイタル、さらにヨーロッパと北米全域での公演などに取り組んだ。
ブレハッチの活動の特別性が認められ、2010年にはシエナのキジアーナ音楽院から優れたピアニストまたはヴァイオリニストに毎年授与されるキジアーナ音楽院国際賞を受賞した。2014年には、4年に1度授与される権威ある賞「ギルモア・アーティスト賞」を受賞したほか、1965年のショパン・コンクールで優勝したマルタ・アルゲリッチからは「非常に誠実で並外れた繊細なアーティスト」、アイルランド人ピアニストで教育学者のジョン・オコナーからは「私がこれまでに聴いた中で最も素晴らしいアーティストのひとり」と表現されるなど、偉大なる先人からも絶賛されている。