ギドン・クレーメル
ヴァイオリン
世界屈指のヴァイオリン奏者ギドン・クレーメルは、ドイツ出身の両親の一人息子として、1947年にラトビアのリガで生まれた。自宅にて、プロのヴァオリニストであった父と祖父から最初の音楽教育を受けた後、リガ音楽学校で学び、後にモスクワ音楽院でダヴィッド・オイストラフに師事した。クレーメルは、ブリュッセル(1967)、モントリオールとジェノヴァ(1969)、モスクワ(1970)の国際コンクールで大きな成功を収めた。ソビエト連邦での長大なツアーの後、クレーメルは西側諸国での演奏を開始し、その頻度を増やしていった。ドイツでは1975年に初の演奏会を行い、1976年にザルツブルク音楽祭、1977年にニューヨークに、それぞれデビューした。また、ミュンヘンの音楽祭「Art Projekt '92」の芸術監督の一人でもあった。
1981年にクレーメルがロッケンハウス(オーストリア)で設立した室内楽の音楽祭は、若手音楽家に挑戦的で革新的な室内楽コンサートを試みる場を提供しており、これらのプログラムはツアーでも演奏されている。約10年間、ドイツ・グラモフォンでレコーディング活動を展開したクレーメルは、1987年に同レーベルと自身初の専属録音契約を結んだ。1992年にロッケンハウスの音楽祭を「クレメラータ・ムジカ」と名付け、1996年にはバルト三国の優れた若手音楽家の育成を目指す室内オーケストラ「クレメラータ・バルティカ」を設立。同団は、2002年にグラミー賞(ベスト・小アンサンブル・パフォーマンス部門)を受賞した。
群を抜いて活発なレコーディング・アーティストであるクレーメルは、120枚以上のアルバムを発表している。稀有な洞察力に支えられた彼の演奏は、これまで多くの権威ある国際的な賞によって称えられてきた。その特筆すべき例として、フランスのディスク大賞、ドイツ・レコード賞、エルンスト・フォン・ジーメンス音楽賞、ドイツ連邦共和国功労勲章、キジアーナ音楽院賞、モスクワの凱旋賞、ユネスコ国際音楽賞、ドレスデンのグラスヒュッテ音楽祭賞、ロルフ・ショック音楽芸術賞(2008年ストックホルム)、イスタンブール音楽祭の生涯功労賞(2010年)、ウナ・ヴィータ・ネッラ・ムジカ=アルトゥール・ルービンシュタイン賞(2011年ヴェネツィア)が挙げられる。2016年には、音楽界のノーベル賞と言われる高松宮殿下記念世界文化賞を受賞した。クレ-メルのレパートリーは、バロック音楽からヘンツェやシュトックハウゼンまで多岐にわたる。また彼は、シュニトケ、ペルト、グバイドゥーリナ、デニソフら旧ソ連の作曲家たちを、西洋の聴衆に紹介している。彼が共演を重ねている演奏パートナーに、マルタ・アルゲリッチ、ヴァレリー・アファナシエフ、オレグ・マイセンベルク、ヴァディム・サハロフがいる。使用楽器は、1641年製のニコロ・アマティ。最新の『Letters to a Young Pianist(若いピアニストへの手紙)』を含む4冊の著作は、クレーメルの芸術的深求と美学的見解の幅広さを反映しており、多くの言語に翻訳されている。