ダニール・トリフォノフ
ピアノ
ダニール・トリフォノフの演奏は、いつも時が止まったような印象を与える。沈黙から生まれる稀有な音楽作りは、超越的かつ啓示的で、全く予測不可能でありながら作曲家の意図に常に敏感であり、音楽の本質に根ざしている。詩情と力強さが魅惑的に混ざり合うトリフォノフのピアニズムは、彼の無比の才能を物語っている。 1991年にロシアのニジニ・ノヴゴロドで生まれ、プロの音楽家を両親に持つトリフォノフは、5歳でピアノを弾き始め、コンサート演奏や作曲を行った。初めてオーケストラと協演したのは8歳の時で、本番中に乳歯を1本失ったことを今も鮮明に覚えている。マルタ・アルゲリッチ、グリゴリー・ソコロフ、ラドゥ・ルプーらの演奏に感銘を受けたトリフォノフは、モスクワのグネーシン音楽学校で師事したタチアナ・ゼリクマンから巨匠ピアニストたちの歴史的な名盤を借り、ラフマニノフ、コルトー、ホロヴィッツ、フリードマン、ソフロニツキーら、ピアノ演奏の黄金時代を築いた名演奏家たちの録音から貪欲に学んで将来の糧とした。
2008年にスクリャービン国際ピアノ・コンクールで第5位入賞後、トリフォノフはクリーヴランド音楽院でセルゲイ・ババヤンに師事し、同地で作曲を学び始めた。2011年にテルアビブのルービンシュタイン国際ピアノ・マスター・コンクールで優勝。同年、第14回チャイコフキー国際コンクールでピアノ部門第1位、並びに全部門のグランプリに輝き、聴衆賞とモーツァルトの協奏曲の最優秀演奏賞も同時受賞した。2013年にドイツ・グラモフォンと専属録音契約を結び、翌年にエコー・クラシック賞の最優秀新人賞(ピアノ部門)を受賞。2015年にはグラミー賞の最優秀クラシック器楽ソロ部門にノミネートされた 。2016年、世界各地からの一般投票により、『グラモフォン』誌の「アーティスト・オブ・ザ・イヤー」に選出された。
トリフォノフの独創的な才能と個性は、作曲家としての高まる評価にも及んでおり、2014年にはクリーヴランド音楽院にて、極めて演奏が難しい独奏パートを含む自作のピアノ協奏曲第1番を初演した。 以来、同曲を各地で演奏し、2017年にはワレリー・ゲルギエフ指揮マリインスキー劇場管弦楽団との共演で同曲をカーネギー・ホールで初披露した。自作のピアノ五重奏曲(協奏五重奏曲)を2018年にヴェルビエ音楽祭で初演、さらにベルリン、ニューヨーク、テルアビブで再演し、多くの好意的なレビューと聴衆の拍手喝采に迎えられた。この成功は、彼のレジデント・アーティストとしての活動や数々の国際的な賞の受賞につながり、『ミュージカル・アメリカ』誌の栄誉ある「アーティスト・オブ・ザ・イヤー2019」にも選出された。