ロマン派
ロマン主義時代の始まりと終わりを定義するのは難しい。ベートーベンやシューベルトの後期の作品にもロマン派の特徴があり、ロマン派は古典派の調性言語、ジャンル、和声を継ぎ目なく受け継いでいる。しかし、ロマン派の時代精神は、啓蒙主義の明晰さ、理知性から離脱し、個人の感情や気持ちの表現に向かい、曖昧さの感覚や、短調、半音階、エンハーモニック調への傾向を見せている。ロマン派の作曲家が深い感情を表現するには、古典派の時代に使われていた形式はあまりにも厳格で制限的であり、それまでの規範が投げ捨てられたのである。曲の最初と最後が同じ調である、ということはなくなった。
ロマン派の音楽は、芸術や文学からインスピレーションを受け、エネルギーと情熱に満ちている。作品は、より表現力豊かになり、想像力に富んだものになった。作曲家たちはメルヘンや神秘的なテーマを扱い、カール・マリア・フォン・ウェーバーの《魔弾の射手》のように、幻想的な題材を好んで選んでいる。メンデルスゾーン、シューマン、ショパンはロマン派の最盛期を代表し、リストやパガニーニは、ピアノとヴァイオリンで名人芸を披露した。また、ヴェルディやワーグナーのオペラでは、登場人物や特定の事象にライトモチーフと呼ばれる短いメロディーが付与され、それが作劇上の手法となった。交響詩や序曲は、交響曲とは異なる描写性の高い音楽で、絵画や小説、民族感情など、他ジャンルの要素を作品に取り込んだ。
ロマン派にとっては、「大は小を兼ねる」。バスクラリネット、ピッコロ、コントラバスーンなどの木管楽器が音楽に彩りを添え、木琴、太鼓、ハープ、鐘、トライアングルなどの打楽器が増強された。この時代、作曲家は自分の情熱的な面を表現する音楽を自由に書くことができた。ブラームスやブルックナーなど、古典派やバロックの形式からインスピレーションを得た作曲家もいたが、より奇抜で独創的な音楽を追求するこの時代では、音楽の常識が書き換えられることが良しとされた。そしてそれは、音楽史上最も大きな変化のひとつであるモダニズムの素地を整えたのである。